【獣医師解説】犬の赤ちゃん・子犬の感染症:細菌性疾患

    犬の赤ちゃん・子犬の感染症:細菌性疾患

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    よくみられるのは通性病原体による感染です。

    通常、細菌性感染は

    • ブドウ球菌
    • 大腸菌
    • レンサ球菌

    に起因します。

    • クレブシエラ菌
    • 緑膿菌
    • サルモネラ菌

    も時に検出されます。

    こういった細菌は健康な子犬にも日常的に検出されるため、原因の特定は難しいです。

    可能な限り純粋培養をし、その菌と対応する臨床症状とが結びついた場合のみ、抗生物質治療の根拠となります。

    病原体を分離し、病原因子および毒力因子と関連づけることがもっとも望ましいですが、

    新生子は体が小さく、病原体検査用の血液サンプルが十分採取できないため、細菌性の全身感染が疑われる場合には限界があります。

    原則として、局所的な臨床症状を伴う感染性疾忠と、敗血症に発展しうる全身感染とは区別されます。

    子犬の重要な細菌性感染

    局所感染●臍炎

    ●新生子結膜炎

    ●皮膚炎

    ●感染性気管気管支炎

    ●気管支肺炎

    ●下痢

    全身感染

     

    ●不特定の病原体を伴う複数の器官への細菌定着

    ●敗血症

    ●ブルセラ菌感染

    ●サルモネラ菌感染

     

    局所感染

    臍炎

    他の動物種の新生子と比較すると、犬の臍の炎症はまれです。

    特別な危険因子とみなされるのは、

    • 母犬による臍帯切断
    • 帝王切開術時の臍帯切断における過誤(短かすぎるまたは長すぎる)

    です。

    同様に、母犬が子犬の臍を繰り返し舐めることで、局所感染が発症する場合があります。

    感染が臍に生じると、病原体が臍から腹腔内の血管に入り込む可能性があります。

    もっとも多いのは臍静脈炎です。

    臍静脈炎から肝膿瘍に発展する場合もあります。

    この合併症は大型犬種にみられます。

    症状
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    臍および臍周辺が腫脹し、時により赤色や青色に変色します。

    臍は湿っている場合があり、一部は膿が出ています。

    全身状態は、炎症の程度によって、障害が生じていない場合も、生じている場合もあります。

    肝膿瘍を伴う子犬は発育不良を起こし、腹部触診の際に痛がる。

    診断

    診断は症状によって行います。

    膿が出ている場合は、綿棒サンプルを取り、細菌検査を行います。

    その際、圧力をかけすぎて膿が腹腔内に入らないよう注意します。

    肝膿瘍の有無は超音波検査法で調べます。

    治療と予防

    抗生物質による5日間の全身療法と並行して、子犬の十分な栄養摂取に留意します。

    臍の腹腔内の部分が発症している場合は、これを外科的に取り除きます。

    単純な臍炎であれば予後は良好です。

    肝臓が関与している場合は不良となります。

    予防は、危険因子を取り除くことです。

     

    新生子結膜炎

    まだ閉じている瞼に感染が生じることがあります。

    ほとんどの場合、そこから化膿性結膜炎に発展します。

    通常、この疾患にはブドウ球菌が関与しています。

    合併症として角膜疾患が生じます。

    症状

    眼部が腫れます。

    まだ閉じている瞼の上に排出物の沈着がみられる場合があります。

    瞼が開く過程が、粘着によって遅れたり、阻害されたりします。

    診断

    症状から明白です。

    病原体分離のために滲出物の綿棒サンプルを取ります。

    治療と予防
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    眼の部分を温かく湿らせた縮棒で洗浄します。

    次に、滲出物を取り除き、瞼と角膜の間に抗生物質軟膏を入れることができる程度まで、注意深く瞼を開けます。

    瞼を突然全開することは避けます。

    通常、2日目には、物理的障害なしに瞼を完全に開くことができるようになります。

    治療は1日3回繰り返し、症状が治まるまで、最低5日間は続けます。

    特別な予防法はありません。

    早期に治療が行われれば、予後は良好です。

     

    皮膚炎

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    早ければ生後1週目の終わりに、子犬は表在性の膿皮症を発症します。

    多くはブドウ球菌に起因します。

    分泌物や汚れが子犬の体表面に付着するような、皮膚の悪条件があると、感染しやすくなります。

    痂皮の下に深い壊死性病変が発達する可能性があります。

    症状

    皮膚病変は湿り気を持つ程度から膿を伴う場合まであり、痂皮や粘着が典型的です。

    診断

    診断は症状によって行います。

    病原体検出のため、綿棒サンプルを取ります。

    痂皮を取り除いたあと、露出した傷の部分から採取するのがもっともよいです。

    治療と予防

    子犬には最低5日間、抗生物質による全身療法を行い、患部は低刺激の殺菌シャンプーで処置します。

    軽度の場合は患部の反復処置のみで十分です。

    子犬には消炎剤としてグルココルチコイドを使用できません。

    徹底的な治療が行われれば、予後は良好です。

     

    感染性気管気管支炎(ケンネルカフ)

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    ケンネルカフはウイルス性と細菌性の病原体の混合感染が原因です。

    関与する病原体は多様です。

    通常は

    • 犬パラインフルエンザウイルス
    • 気管支敗血症菌(ボルデテラ菌)
    • マイコプラズマ

    が加わっています。

    罹患した犬はすでに潜伏期から大量の病原体を排出します。

    ウイルスは呼吸器の上皮の損傷をもたらし、細菌による二次感染を招きやすくなります。

    細菌は持続的な病変を生じます。

    罹患犬はしばしば危険因子の作用している環境で生活しています。

    特に社会的ストレスや犬同士の頻繁な接触は誘因となります。

    子犬は6週齢から罹患します。

    ほとんどの場合、病変は鼻道、気管、気管支に限定されます。

    子犬が幼いほど気管支肺炎への拡大の危険性が高いです。

    症状
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    全身状態には異常がなく、乾いた発作性の発咳が典型的です。

    興奮時には咳の発作が強まります。

    しばしば扁桃腺炎がみられます。

    疾患が気管支肺炎にまで及んでいる場合、発熱と湿った咳が加わり、全身状態に障害が現れます。
    診断

    診断は特徴的な発咳で行います。

    全身状態が悪化した場合や、一連の治療にもかかわらず改善がみられない場合は、

    気管支肺炎の可能性があるのでX線検査を行います。

    細菌性の病原菌を診断するには、気管粘膜を検査します。

    治療と予防
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    8週齢以下の子犬では、細菌性の続発性合併症を避けるために、常に抗生物質治療を行います。

    週齢の進んだ犬で症状が軽い場合は、その必要はないです。

    回復を早めるために、乾いた暖かい空気を避け、子犬を良好な室内気候に置くのがよいです。

    • 散歩をしたり、駆け回るなど、身体的負担の大きい遊びはさせないようにします。
    • 感染が広がらないように、他所の犬とは接触させないようにします。

    犬は2~3週間安静にさせます。

    最初の5日間は、13回のエアゾール吸入治療を補助的に行います。

    乾いた咳が痛みを伴う場合、鎮咳剤を使用します。

    この使用は2日以上行いません。

    これは改善時の判断ができるよう、また、症状が変化した際に咳による滲出物の吐き出しを妨げないためです。

    全身状態に異常がなく、気管支肺炎を伴わない場合、予後は良好です。

    34日での回復が期待できます。

     

    予防法はまず第一に飼育条件の改善です。

    犬インフルエンザウイルスのための予防接種をします。

    さらに、ドイツでは鼻腔に施す、気管支敗血症菌(ボルデテラ菌)の生ワクチンが市販されています。

    これによって、数ヵ月にわたって局所免疫がもたらされます。

    比較的飼育頭数が多く、過去にケンネルカフを発症したことがある場合は、予防接種が有効です。

    ただし、予防接種を飼育上の不備の埋め合わせとしてはならないです。

     

    気管支肺炎

    続発性の感染性肺炎は、

    • 非感染性の損傷(たとえば吸引性肺炎)から感染性気管支炎への拡大
    • 敗血症時の病原菌の肺組織への移行

    によって発生します。

    このほか、肺の原発性感染もありえます。

    胸膜炎を併発する場合もあります。

    ほとんどの場合、最初はウイルス性にみえますが、のちに細菌の二次感染が病変において支配的となります。

    気管支肺炎では、パスツレラ菌、ボルデテラ菌、ブドウ球菌がもっとも多く検出されます。
    症状
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    罹患犬は発熱し、全身状態に障害を示します。

    乳摂取の減少に伴い、体重が減少します。

    二次的に急速な脱水が生じます。

    呼吸促迫および呼吸困難が典型的です。

    • 滲出液が鼻孔から流出します。
    • 発咳もあります。
    • 感染性気管支肺炎とは異なり、咳は湿っています。
    診断

    臨床的な仮診断は、胸部X線検査によって確定されます。

    肺聴診所見に乏しく、病変が広がっていても、はっきりしない場合もあります。

    気管支滲出物の病原体検査を行うよう努めます。

    治療と予防
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    治療は、抗生物質を最低4週間、継続投与します。
    • 脱水症は、状況に応じて注射または注入によって回復させます。
    • 脱水症を示していない場合に限り、去痰剤が有効です。

    1日3回の吸入治療は補助的処置として効果が高いです。

    この処置は気管支および肺胞の空間を広げ、痰の排出を促します。

    飼育環境を最良の状態に保つことおよび十分な栄養摂取に留意します。

    身体を疲労させないようにします。

    予後は注意を要します。

    治療管理のために、臨床的経過の観察のほかに、治療開始1週間後にX線検査を行います。

    予防として、感染性疾患の一般的危険因子を回避します。

     

    下痢

    細菌性の下痢症は、通常

    • 大腸菌
    • サルモネラ菌
    • クレブシエラ菌
    • クロストリジウム
    • カンピロバクター菌

    に起因します。

    その際、これらは下痢の原発性病原体として、または腸内細胞が非生物性毒物やウイルスによって損傷を受けたあとに作用します。

    大腸菌性の下痢は2日齢から発症します。

    栄養素と水分の消化・吸収障害、および腸内への水分排出の増加によって、

    子犬は急速に

    • 脱水/血液量減少
    • アシドーシス
    • 電解質不均衡
    • エネルギー欠乏

    を発症します。

    さらに、特に若犬の場合は、病的現象として菌血症/敗血症へと拡大する危険性があります。
    症状
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    前駆症状として、子犬は落ち着かなくなり、泣き叫びます。

    腹壁は緊張します。

    吸飲はしばしば中断されます。

    ゆるい便、さらに薄い粥状の便の頻繁な排泄が典型的です。

    • 便の色はさまざまです。
    • 緑がかった便は胆汁色素の増加を、血液の混入は組織崩壊を示しています。
    • 腸に内容物がなくなると、便の排泄は停止します。

    直腸炎、直腸ヘルニアを発症する場合もあります。

    続発性合併症の程度によって、これ以外の症状は左右されます。

    病原体が体内に広がると、腸以外の症状が支配的となります。

    診断

    診断は症状に基づいて行います。

    この文章は消さないでください。
    典型的な排便行動が観察されない場合、疾患の前駆段階や最終段階の診断は難しいです。

    個別的な補充療法を行うために、欠乏と合併症の程度を正確に判定するための臨床検査を行うことが望ましいです。

    これは通常、ごく幼い子犬では不可能です。

    対象とする検査を行うためには、十分な血液を採取しなければならならず、新生子の器官をさらに弱化させてしまう恐れがあります。

    病原体を特定するため便のサンプル採取が必要です。

    サンプルを早期に採取するほど、検査結果の説得力は高いです。

    細菌検査およびウイルス検査は常に有意義ですが、寄生虫検査の必要性は罹患時の生後日数によります。

    子犬に寄生する寄生虫とその発育期間、感染経路、臨床的疾患が生じやすい週齢の一覧

    寄生虫
    発育期間
    感染経路
    通常の発症週齢
    クリプトスポリジウム属2~14経口生後第1
    ジアルジア属4~16経口生後第1
    犬イソスポラ(嚢胞イソスポラ)など6~10経口生後第1
    犬回虫35

    子犬の場合(垂直感染後)21

    経口または垂直(母犬の子宮経由)生後3週目以降
    犬十二指腸虫21経口、経皮、経乳汁生後3週目以降
    治療と予防
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    続発性合併症は幼犬の生命にかかわる危険性があるので、3週齢以内の下痢症は必ず、ただちに適切な治療をします。

    より週齢の進んだ子犬で病状の経過において全身状態に異常がない場合は、自然治癒を待つことができます。

    まず第一に重要なのは、既存の欠乏症とさらなる喪失を回復することです。

    抗生物質の使用は、

    • 発熱
    • 血液の混じった便がみられる場合
    • 抗生物質を用いない治療で改善がみられない場合

    に限定されます。

    どの抗生物質治療も、正常な消化に必要な生理的な腸内細菌叢を損なってしまいます。

    抗生物質投与の前に、病犬を再水和しておきます。

    予後は続発性合併症の程度によって異なります。

    3週齢以上の子犬で、全身状態の異常を伴わない場合、予後は良好です。

    予防には、危険因子を同避するこが有効です。

    便は母犬が食べてしまわない場合、すぐにお産箱から取り除きます。

     

    全身感染

    新生子の特徴として強調する必要があるのは、細菌性全身感染と敗血症の発症が、若犬や成犬と比べて顕著なことです。

    病原体の拡散を避けるため、あらゆる局所感染は速やかに、適切に治療します。

    一次的には明らかに局所に限定されていた感染が、急激に全身に広がり、
    さまざまな器官の損傷により、不特定の症状が引き起こされる場合があります。

    症状

    症状は一定しません。

    • 鳴き叫ぶ
    • 嗜眠症
    • 体重減少
    • 腹部膨満
    • 脱水
    • 断続的発熱

    そのほか多くの症状がみられます。

    疾患の最終段階ではしばしば髄膜炎が生じます。

    診断

    症状が一定しないため、通常は仮診断しかできません。

    剖検を行えば、さまざまな器官における病原体を証明することができます。

    比較的大きな子犬の場合は、血液検査によって細菌を分離するよう試みます。

    これは、菌血症/敗血症がみられる場合に成功します。

    治療と予防

    治療は、症状と病因に応じて行います。

    水分およびエネルギーの欠乏から回復させます。

    長期にわたって要求量に即した補充や薬剤の投与を行う場合には、輸液療法が最適です。

    抗生物質治療は、血清の投与で補完します。

    そのためには、0.2mL/100g BWの、健康で予防接種済みの成犬の血清を皮下投与します。

    予後は不良です。

    予防法は、初乳摂取のためのあらゆる改善措置を講じることです。

     

    全身感染の特殊な病原体

    犬ブルセラ菌

    子宮内感染の結果、

    • 集中的治療にもかかわらず死亡する
    • 生命力の弱い子犬が生まれる

    場合があります。

    診断は死後に行われます。

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    ブルセラ病の犬繁殖上の問題は、雄および雌の不妊症をもたらすことです。

    罹患雌犬には胎子死亡や流産がみられます。

    水平感染は交配によって、垂直感染は妊娠中の母犬から胎子へと生じます。

    感染犬は数ヵ月にわたって、時には断続的に、病原体を排出します。

    ブルセラ菌が子犬の死因として診断された場合は、すぐに母犬および接触のあった犬の血清検査を行い、3週間後に再検査します。

    抗体陽性の犬は、他の犬にとって危険です。

    罹患犬は抗生物質で治療し、他の飼育犬から隔離します。

     

    サルモネラ菌
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    サルモネラ菌は複合感染と単独感染の場合で異なった病像をもたらします。

    この菌は第一に下痢を引きおこす病原体ですが、敗血症の最終期に大量に観察されます。

    妊娠中の雌犬の場合、サルモネラ菌は流産をもたらします。

    感染は経口で生じます。

    その際、排菌している個体の便および汚染された食餌が最大の原因となっています。

    サルモネラ菌が検出された時は、獣医学的処置のほか、ヒトに対する感染の可能性も考慮する必要があります。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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