獣医解説!犬のアトピー性皮膚炎〜原因、症状、治療〜

    皮膚は全身を纏い、外的環境から身を守るとともに、健常な内的環境を保つ機能性の高い鎧です。

    皮膚が負荷に耐えがたい状況に陥ると、様々なメッセージを発します。

    かゆみや炎症はそのひとつです。

    これらはきわめて日常的な徴候で、生理的かつ一過性から、体質や環境因により持続することもあります。

    後者を代表とする体質のひとつとして、アトピー素因が知られています。

    この素因を基底とした皮膚炎は反復し、QOL の維持には適正な医療的対応が求められます。

    この記事を読めば、犬のアトピー性皮膚炎の原因、症状、治療法までがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、犬のアトピー性皮膚炎ついてご存知でない飼い主、また愛犬がアトピー性皮膚炎と診断された飼い主は是非ご覧ください。

    ✔︎本記事の信憑性
    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    犬のアトピー性皮膚炎〜原因、症状、治療〜

    アトピー性皮膚炎の原因

    アトピー性皮膚炎の原因

    アトピー性皮膚炎はヒトの疾患です。

    1923 年にCoca とCooke が家族性に生じる気管支喘息などのアレルギー性疾患群に関与した体質をアトピー素因と呼称しました。

    1933 年にはSulzberger がアトピー素因を背景として生じる慢性炎症性皮膚疾患群をアトピー性皮膚炎と呼称しました。

    アトピー性皮膚炎は当初アレルギー疾患として扱われ、現在では多因性疾患として捉えられています。

    その病態は免疫異常と皮膚バリア機能異常に大別されています。

    現在(公社)日本皮膚科学会では、アトピー性皮膚炎を「増悪・寛解を繰り返すそう痒のある湿疹を主病変とする疾患で、患者の多くはアトピー素因〈家族歴.既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の疾患)又はlgE 抗体の産生し易い素因〉を持つ」と定義しています。

    ー方、犬では、1941 年にWittich によってブタクサ抗原による皮内反応陽性かつ減感作が成立したフォックステリアに対してアトピーという病名が登用され、その後感染症、寄生虫症、食物アレルギーが否定された顔や肢端の持続的な痒みを訴える犬をアトピーと呼ぶ慣習が生まれました。

    犬アトピー性皮膚炎の臨床、診断

    足底の指間や屈曲部に紅斑と慢性経過を示唆する苔癬化

    眼囲の脱毛と紅斑、さらに慢性経過を示唆する色素沈着と苔癬化

    2001年、アメリカ獣医皮膚科専門医協会が中心となってACVD Task Force of Canine AD が設置され、アトピー性皮膚炎は「遺伝的素因が関与するアレルギー性炎症性皮膚疾患で、環境アレルゲンに対するIgE の産生異常を有す」と定義されました。

    犬の定義はヒトのそれとは若干異なります。

    犬アトピー性皮膚炎の治療

    犬アトピー性皮膚炎の治療

    人のアトピー性皮膚炎では、様々な治療ガイドラインが提唱されています。

    (公社) 日本皮膚科学会では、治療ゴールを「症状がない、あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない。軽微ないし軽度の症状は持続するも、急性に悪化することはまれで悪化しても遷延することはない。」と設定しています。

    治療は薬物療法と悪化因子の検索に大別され、前者では炎症に対する外用療法(ステロイド、タクロリムス) と皮膚生理学的異常に対する外用療法, (上記以外の外用薬) 、さらに全身療法(抗アレルギー薬)が推奨されています。

    また悪化因子として、アレルゲン(食物、環境)、接触因子、心身医学的側面を強調しています。

    最近犬においても、Treatment of canine atopic dermatitis: 2010 clinical practice guidelines from theInternationalT ask Force on Canine AtopicD ermatitis (ACVD Task Force of Canine AD が改組された新委員会)が提唱されました。

    本ガイドラインでは、治療を急性期と慢性期にわけています。

    急性期

    急性期では、以下を椎奨しています。

    • 発症因子の識別と排除( ノミ、食物、環境アレルゲン等アレルギー性発症因子の識別と排除、また皮膚や耳に感染や増殖の臨床があれば抗歯薬の使用を検討)
    • 皮膚や被毛のケアに関する改善(非刺激性シャンプーによる洗浄)
    • 薬物療法による痒みや発疹の消退(局所病変には外用グルココルチコイド、また汎発や重症病変には経ログルココルチコイドによる短期治療)

    パナフコルテロンは、有効成分のプレドニゾロンを含有した合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤です。

    薬剤投与量は、臨床症状を観察しながら増減して維持量を決定します。

    セフェム系抗生物質のセファレキシンを有効成分とする薬です。

    慢性期

    急性期を回避した後のアトピー性皮膚炎の経過は実に多様です。

    軽症例では期間限定的な対症療法でも差し支えありません。

    しかしかゆみや皮膚炎が反復し長期薬物管理が要求される事例では、個別性を重視した多角的な対応が要求されます。

    ガイドラインでは増悪因子の識別と排除、皮膚や被毛のケアに関する改善、薬物療法による痒みや発疹の消退、再発予防に重点を置いています。

    増悪因子として常に指摘されるアレルギーですが、これには急性期に準じた対応とともに、皮内反応や血清IgE 検査によるアレルゲンの検討が推奨されています。

    しかし、IgE の上昇とアレルギーや皮膚炎の関係は必ずしも一致せず、その評価には慎重さが求められます。

    慢性期では皮膚や被毛のケアに関する改善が重視されていますが、犬において実地的有用性に関する工ビデンスは多くありません。

    犬ではスキンケアとして、経験的にシャンプー療法が汎用されています。

    しかし、理論と実地の裏付けとなる研究は少なく、シャンプーによるご家族の労力的負担についてもあまり配慮されていません。

    スキンケアの有用性に異論はありませんが、惰性的なシャンプー療法には再考が必要です。

    本ガイドラインでは、新たな医療的アプローチとして回流式沐浴の有用性を指摘しています。

    慢性期管理における最大の課題が、グルココルチコイドに代わる薬物療法の模索です。

    ガイドラインでは局所病変に外用タクロリムス、汎発疹や重症病変に経ロシクロスポリン、インターフェロン皮下注射を推奨し、さらに経口必須脂肪酸製剤、抗ヒスタミン薬、淡方薬等の使用に触れています。

    慢性期におけるグルココルチコイドに代わる薬物療法としてシクロスポリンを提案されています。

    シクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、これはT 細胞活性化のシグナル伝達を担うカルシニューリンに結合し、活性化T 細胞転写因 子Nuclear Factor of Activated T cell (NF-AT) の脱リン酸化による核内移行を阻止することで、細胞内IL2 転写因子の活性を抑制する薬物です。

    シクロスポリンは分子量が大きく吸収に難があることから、マイクロエマルジョンと呼ばれる技術が導入されました。

    これによって経口投与時の血中濃度が安定し、少最投与による 免疫調節が可能になりました。

    シクロスポリンは、初期免疫応答に関与する細胞( ランゲルハンス細胞、リンパ球)やアレルギー応答に捌与する工フェクター細胞(肥満細胞、好酸球)の働きも抑制します。

    本剤は信頼性の高い比較研究に基づいた解析によって有用性が証明されています。

    しかし比較研究では急性期症例が供試され、さらにシクロスポリン単独投与による検討でした。

    前述したように急性期ではステロイド治療が推奨され、 慢性期ではその漸減休薬が課題です。

    通年性にステロイドを要求する症例にシクロスポリンを併用すると、重大な副作用は認められず、3 ヵ月後には約80% の症例でステロイド使用量を半減できました。

    さらに治療3ヵ月後から6ヵ月後にかけて約70% の症例でほぼ半減できました。

    効果発現に要する治療期間や価格など、臨床的にはいくつか課題もありますが、慢性期アトピー性皮膚炎の薬物療法の選択肢として重視しています。

    犬のアトピー性皮膚炎の薬の実際

    犬のアトピー性皮膚炎の薬の実際

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    最近は動物用医薬品もジェネリックも増えており、動物病院で病気さえ診断していただいて、
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    アトピカ

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    Atopica(アトピカ)は、犬のアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や自己免疫症疾患の免疫抑制剤です。

    アレルゲンに対して過剰に反応してしまう免疫系皮膚細胞の働きを抑制し、皮膚の赤みやかゆみなどのアトピー性皮膚炎の症状を緩和します。

    Atopica(アトピカ)は、シクロスポリンを有効成分とした免疫抑制剤です。犬の難治性アトピー性皮膚炎における症状の緩和に使用されます。

    アレルゲンに対して過剰に反応してしまう免疫系皮膚細胞の働きを抑制し、皮膚の赤みやかゆみなどのアトピー性皮膚炎の症状を緩和します。

    有効成分のシクロスポリンは、世界で初めて臨床応用された免疫抑制剤です。

    人のアトピー治療薬として1987年から使用され、犬用のアトピー薬としては日本で2006年から使用開始されています。

    しかし、従来のシクロスポリンは吸収のばらつきが大きくありました。

    Atopicaは、それを解消したシクロスポリンのマイクロエマルジョン前濃縮物製剤で、体内で混合ミセルを簡単に形成し、水溶性と同様の性質を示すことで、胆汁酸分泌量や食餌の影響による吸収率の変動を少なくし、速やかで安定した吸収を可能にしています。

    アイチュミューン

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    有効成分としてシクロスポリンを含有した、犬猫用の免疫抑制内用液剤です。

    アトピカと同一有効成分です。

    犬の難治性のアトピー性皮膚炎や、猫の慢性アレルギー性皮膚炎の症状を緩和します。

    アイチュミューンは、アトピカジェネリックで、有効成分シクロスポリンを配合した免疫抑制剤です。

    犬の難治性アトピー性皮膚炎における症状の緩和に使用されます。

    アレルゲンに対して過剰に反応してしまう免疫系皮膚細胞の働きを抑制し、皮膚の赤みやかゆみなどのアトピー性皮膚炎の症状を緩和します。

    シクラバンス内用液

    シクロスポリン液体

    有効成分としてシクロスポリンを含有した、犬猫用の免疫抑制内用液剤です。アトピカと同一有効成分です。

    犬の難治性のアトピー性皮膚炎や、猫の慢性アレルギー性皮膚炎の症状を緩和します。

    アポキル

    アポキル

    アポクエル(アポキル錠)は、オクラシチニブマレイン酸塩を有効成分とした犬専用の薬剤で、アレルギー性皮膚炎にともなう、かゆみや赤み、腫れなどの症状を緩和するほか、長期的な治療が必要となるアトピー性皮膚炎の症状にも優れた効果を示します。

    高い即効性をもつ経口摂取タイプの薬剤です。

    犬がかゆみを感じる原因として、ノミ、食べ物、カーペット消臭剤、シャンプー、殺虫剤、花粉やカビ、ホコリなどの環境アレルゲンなどが挙がられます。

    これらの原因によって、犬が自身の身体を舐める、噛む、掻きむしるなどの症状が出た際に、アポクエル(アポキル錠)は処方されます。

    アポクエル(アポキル錠)は、かゆみや炎症などの症状を引き起こすサイトカインの産生を抑制することで症状を緩和します。

    摂取後4時間ほどで効果を発揮し、24時間以内にかゆみをコントロールします。

    なお、従来のステロイド系の薬剤のような副作用は、比較的少ないとされています。

    アポクエル(アポキル錠)は、犬用のアレルギー性およびアトピー性皮膚炎にともなうかゆみを緩和する薬剤です。

    不飽和脂肪酸製品

    またガイドラインでは、このような薬物療法に限定せず、スキンケアの延長として、さらに使用薬物の減量を目的とした治療にも言及しています。

    そのひとつとして不飽和脂肪酸製品があげられます。

    これまで多くの脂肪酸製品が検討されてきましたが、この領域の工ビデンスは少なく、その有用性についても十分に解明されていません。

    しかし不飽和脂肪酸製品は人でもサプリメントとして汎用されていることから、多角的治療のひとつとして選択の妥当性が受け入れられています。

    近年、各フードメーカーが脂肪酸強化療法食を開発し、代替医療としてサプリメントを提供する機会が少なくなっています。

    しかし脂肪酸にも種々のタイプがあり、どのような作用的差異があるのか、またどの事例がどのタイプに効果を示すかについては全く解明されていません。

    そこで慢性期管理における補助的治療の一つとしてモエギイガイから抽出されたモエギタブ、モエギキャップが有効とされています。

    脂肪酸は植物や魚から抽出されますが、本成分は従来の生成過程で必要としていた熱処理がなく、また添加物が使用されていません。

    その有用性に関する評価の一環として、lヵ月後に6 割の飼い主様が継続使用を希望されました。

    その後の追跡でも、約4 割の方々が3ヵ月以上継続的に使用されていました。

    サプリメントの継続使用に関する調査をみると、人ではマルチビタミンの使用頻度が最も多く、3ヵ月以上の継続使用は約30%と報告されています。

    動物における調査はありませんが、良好だと考えられます。
    マルチビタミン   マルチタブ

    また同じ代替治療として、腸管免疫に注目したプロバイオテクスの効果の指摘されており、さらに再発予防としては犬で古くからアレルゲン特異的免疫療法の有用性が認知されています。

    舌下製剤(減感作療法)

    最近海外では舌下製剤が、また本邦でも遺伝子組み換え製剤が開発されてい ます。

    犬アトピー性皮膚炎(CAD)は複雑な病態が入り混じる疾患であるため、複数の治療を組み合わせることが正しい治療方針になります。

    CADの感作(過敏)抗原の診断にかなりの確信が持てるのであれば、治療選択肢の1つとして減感作療法(別名、免疫療法)があります。

    症例が1型アレルギー主体であるならば、この減感作療法は治療方針の基軸になります。

    減感作療法は、古くからアレルギー疾患の根治療法であり、感作抗原を徐々に生体内に入れ、アレルギー反応を起こしている感作を減じるのが目的ですが、その詳細な機序はいまだに解明されていなません。

    抗体ブロック理論などがあるが、近年では、制御性T細胞がこの減感作療法にかかわっているかもしれないという説もあります。

    この減感作療法の成功率は、症例全体数に対して6~7割であり、すべての症例に効果が現れるわけではありません。

    また、効果の発現に数力月を要し、即効性はないです。

    さらに、導入期には2日に1回、動物病院を訪れる必要があるなど、いくつかのハードルがあります。

    そのため、急速減感作療法が考案されましたが、これは24時間以内に感作抗原を闘値濃度に一気に上げようとするために、ショックなどの副反応が出現する可能性が懸念されました。

    これらの問題点を少しでも解決できる方法として、舌下減感作療法(SLIT)が考え出された。

    皮下注射に代わるSLITは、ヒトのアレルギー疾患で広く一般的に用いられるようになりました。

    アレルギー物質(抗原)を口腔内の舌下に投与する方法であり、ヒトにおいてデータおよびエビデンスの報告が増えていることは、安全性と有効性を裏付けていると言えます。

    また、米国においては、近年犬における臨床応用の報告が相次ぎ、すでに商業用の抗原が販売されつつあります。

    SLITの最大の問題点は、抗原の輸入の煩雑さにあります。

    生物学的製剤であることから一般の個人輸入よりも農林水産省薬事監視室の許可を取ることが必要です。

    また抗原の保存は冷蔵であるために、空港まで取りに行かなくてはならないです。

    アレルゲンの除去

    原因アレルゲンヘの曝露を止めなければ、いくら皮膚炎を抑制する治療をしても効果が得られません。

    その ためには、原因抗原特定することが重要です。

    犬アトピー性皮膚炎のまとめ

    犬アトピー性皮膚炎のまとめ

    急性期のアトピー性皮膚炎は治ります。

    ただし皮膚炎の基底となるアトピー素因の理解に乏しいと再発を繰り返します。

    素因とはその個体自身です。

    現在獣医皮膚科学が有しているエビデンスは乏しく、点で捕らえた知見を繋いだガイドラインでは、この素因に充分に対応することが出来ません。

    個別性を重視する慢性期の管理では、体質と誠実に向き合い、そして上手につきあう治療が求められます。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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