獣医師解説!おしっこが血尿や頻尿?犬や猫の尿検査を徹底解説!(尿沈渣、尿比重、尿試験紙、遺伝子検査Braf)

    おしっこの調子が悪いので、動物病院で尿検査で異常があると言われた・・・

    健康診断をしたら、尿検査に異常があったので点滴や腎臓用の食事、薬を勧められた・・・

    血尿や頻尿は、目につきやすい異常なので、心配で病院を受診される方も多いです。本記事ではそんな時に行われる尿検査についてお話しして行きます。

    排尿の異常は、実際の臨床現場でも非常に多い症状です。

    • 様子、経過を見てくださいと言われたけど心配...
    • 検査してくれなかった...
    • 病院ではよくわからなかった...
    • 病院では質問しづらかった...
    • 混乱してうまく理解できなかった...
    • もっと詳しく知りたい!
    • 家ではどういったことに気をつけたらいいの?
    • 治療しているけど治らない
    • 予防できるの?
    • 麻酔をかけなくて治療できるの?
    • 高齢だから治療ができないと言われた

    もしくは、病院に連れて行けなくてネットで調べていた

    という事でこの記事に辿りついたのではないでしょうか?

    ネット上にも様々な情報が溢れていますが、そのほとんどが科学的根拠やエビデンス、論文の裏付けが乏しかったり、情報が古かったりします。

    中には無駄に不安を煽るような内容も多く含まれます。

    ネット記事の内容を鵜呑みにするのではなく、

    情報のソースや科学的根拠はあるか?記事を書いている人は信用できるか?など、

    その情報が正しいかどうか、信用するに値するかどうか判断することが大切です。

    例えば...

    • 人に移るの?
    • 治る病気なの?
    • 危ない状態なのか?
    • 治療してしっかり治る?

    これを読んでいるあなたもこんな悩みを持っているのでは?

    病院で尿検査を行って、異常がないと言われて、安易に抗生剤を出された場合は注意が必要です!

    結論から言うと、尿検査は、新鮮な尿での検査が理想という条件はありますが、非常に簡便でどこの病院でもできるような、技術レベルも低い検査です。

    尿に異常がある場合は積極的に行うようにしましょう。

    この記事は、愛犬や愛猫の排尿の異常や尿検査が悪いと病院で言われた飼い主向けです。

    この記事を読めば、愛犬や愛猫の排尿の異常や尿検査が悪いとことが何を意味するかがわかります。

    限りなく網羅的にまとめましたので、ご自宅の愛犬や愛猫の排尿の異常や尿検査について詳しく知りたい飼い主は、是非ご覧ください。

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    ✔︎本記事の信憑性

    この記事を書いている私は、大学病院、専門病院、一般病院での勤務経験があり、
    論文発表や学会での表彰経験もあります。

    今は海外で獣医の勉強をしながら、ボーダーコリー2頭と生活をしています。

    臨床獣医師、研究者、犬の飼い主という3つの観点から科学的根拠に基づく正しい情報を発信中!

    記事の信頼性担保につながりますので、じっくりご覧いただけますと幸いですm(_ _)m

    » 参考:管理人の獣医師のプロフィール【出身大学〜現在、受賞歴など】

    ✔︎本記事の内容

    獣医師解説!おしっこが血尿や頻尿?犬や猫の尿検査を徹底解説!(尿沈渣、尿比重、尿試験紙、遺伝子検査Braf)

    尿検査:尿の採取方法

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    膀胱穿刺、膀胱炎

    尿沈渣の観察は泌尿器疾患の診断に必要な手技です。

    尿検査は、血尿や、頻尿など、排尿に異常を見つけた場合、もしくは健康診断ですることが多いです。

    基本的な採尿方法、標本の作成方法、観察時の注意をまとめました。

    尿採取の方法

    獣医領域で行われている主な採尿方法としては、自然排尿、カテーテル導尿、膀胱穿刺があります。

    尿路の細菌感染を判断する際、自然排尿>カテーテル導尿>膀胱穿刺の 順で細菌の混入が起こりやすいとされます。

    細菌の混入率は報告によって異なるが、自然排尿では 40~80%、カテーテルで20%程度、膀胱穿刺ではほとんどないです。

    ただ、菌同定を行うことで、環境からの細菌混入か、疾患に関する病原性のものか、ある程度、判断できることもあります。

    一方で、膀胱穿刺では細菌が分離できなかった尿石症の症例の24%が膀胱組織を用いた培養で陽性であったことが報告されています。

    膀胱穿刺により合併症が起きることはまれですが、尿道結石などで膀胱がパンパンに腫れている場合や膀胱腫瘍の時は破裂や転移の可能性が高いため危険です。

    ポイント
    • 尿の培養検査を予定する場合、膀胱穿刺>カテーテル採尿>自然排尿の順でよいサンプルになります

    尿の保存

    保温時間が長く延び、保存温度を低くすると結晶が析出します。

    動物の尿では保存によりシュウ酸カルシウムが析出することが多いです。

    pH や比重は変化しません。

    採取後すぐに検査できない場合には、冷蔵で保存します。

    しかし、保存した尿を用いて検査する場合には、結晶成分の評価は行わないようにします。

    自宅で採尿した場合は、朝一採尿し、すぐに病院で検査することが重要です。

    ポイント
    • 冷蔵保存した尿では結晶の検査は実施しない。
    • 培養、pH、比重などは保存尿でも検査可能である。

    尿沈渣の検査法

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    尿沈渣

    尿沈渣の基本手技について獣医領域で確立された方法はないですが、ヒトの日本臨床検査標準協議会の報告が参考にされることが多いです。

    方法

    標準的な方法は以下のとおりです。

    尿 10 mL をスピッツ管に入れ、卓上の遠心分離器を用い 1500 rpm(血清分離より も遅い)で5分間遠心し、上清を取り除きます。

    沈渣量を約200μLとし、ピペットなどで20回以上撹拌、1/2滴程度をスライドガラスに載せます。

    染色標本も作製します。

    染色液としてはステルマンハイヤー染色(例:ラボステイン S)が用いられます。

    少量の染色液をカバーガラスかスライドガラス上に載せて、沈渣のサンプルを加えた後、混合し数分放置した後に観察します。

    形態を詳しく観察したい場合には、血液塗抹と同様に塗抹標本を作製することもあります。

    400倍で鏡検し、5視野以上観察してその平均から細胞数を評価します。

    また、沈渣標本を固定し、ニューメチレンブルーやライトギムザ染色などで染色して細菌の形態や数を評価します。

    評価は主観的ですが、以下の表の基準に従い記録します。

    結晶の有無やその形状についても記載します。

    沈渣標本の観察

    尿中細菌数の評価基準

    赤血球

    高張尿では金平糖状、低張尿では赤血球が膨化した球状のものや破裂した ghost cell(ゴースト細胞)などがみられます。

    糸球体由来の赤血球はさまざまな形態を示します。

    白血球

    染色すると核が染まり、観察しやすいです。

    赤血球と同様に尿浸透圧の影響を受けます。

    カバーガラスを載せる染色法では、細胞が押しつぶされていないため小さくみえます。

    分葉核がみにくいので、好中球をリンパ球などと間違えやすいです。

    白血球は、子宮、 膣などの炎症や感染からも混入する可能性があります。

    白血球・赤血球の評価基準(×400)

    扁平上皮

    尿中では最も大きい細胞であり、細胞質の割に核が小さく、膣などに由来します。

    移行上皮

    膀胱、尿管、腎盂などに由来し、白血球の数倍の大きさです。

    扁平上皮と比べて 細胞が円形で核が大きいです。

    尿細管上皮は移行上皮より通常小さいです。

    円柱

    円柱は腎臓の尿細管の病変に関連してみられることが多いです。

    円柱が観察される場合 には異常所見として必ず記載します。

    • 硝子円柱:健常動物でもときどきみられる。一様な無構造の円柱。
    • 赤血球円柱:糸球体腎炎や梗塞などによる出血を示唆します。
    • 白血球円柱:腎盂腎炎など感染でよくみられます。
    • 上皮円柱:尿細管壊死に関連してみられます。
    • 顆粒円柱:上皮細胞や血液細胞が変性したもの。
    • 脂肪円柱:尿細管上皮が脂肪変性したもの。
    • ろう様円柱:顆粒円柱の変性がさらに進んだもの。

    尿比重

    通常は比重計で測定されます。

    尿比重は動物の水和状態によって大きく変化します。

    そのため、一概に正常範囲を決めることはできないが、通常1.015~1.050程度です。

    慢性の腎疾患では尿濃縮能の低下により尿比重の低下が早期に現れます。

    持続的な低比重尿がみられる場合には異常と考えます。

    猫では比重が1.035 よりも低い場合に異常と考えるとする報告もあるが、臨床上対応されるのは 1.025以下の尿が継続的にみられるような場合です。

    尿崩症では 1.010以下にまで低下することが多いです。

    腎臓排泄型の造影剤(通常臨床で静脈投与されるX線造影剤)を投与すると尿比重は高くなります。

    尿比重の参照値

    ポイント
    • 尿比重は常に変化します。
    • 持続的な低比重尿がみられる場合には、腎疾患を疑う。

    尿試験紙

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    尿蛋白、尿潜血、潜血、 ケトン体、ビリルビン

    蛋白

    pH 指示薬誤差法で測定されます。

    本法の感度は蛋白濃度で10 ~ 20 mg/dL程度とされます。

    アルブミンに対して高感度とされています。

    簡便法であり、強いアルカリ尿や逆性石鹸の混入で擬陽性となり、強い酸性尿で偽陰性が出やすいです。

    蛋白量(相対的) は尿蛋白/クレアチニン比として表され、参照値はおおむね1以下程度です。

    膿尿や血尿がある場合には蛋白の混入を考慮する必要があるが、実際には軽度な血尿であれば尿蛋白/クレアチニン比はあまり影響を受けません。

    尿アルブミン濃度も、肉眼的な色調がついた血尿であっても1mg/dL 程度です。

    多発性骨髄腫で出現することのあるベンス・ジョーンズ蛋白(実際には抗体のL鎖に相当)は、試験紙の検査では検出しにくいです。

    ポイント
    • 尿蛋白の定量のために尿蛋白/クレアチニン比を検査する。

    尿pH

    pH は通常尿試験紙で測定されます。

    通常は pH 5.0~7.0。

    しかし、尿試験紙による判定では半数以上の例でpH が0.25 以上ずれます。

    正確に pH を測定したい場合には pHメーターを用います。

    家庭で採尿してもらったサンプルについては、冷蔵庫で保存すれば24時間までは臨床上問題となる pH の変化は起きないです。

    尿の潜血

    ヘモグロビンの偽ペルオキシダーゼ反応を応用した方法で検出されています。

    赤血球が混入した尿では試験紙上にみどり色の斑点状のスポットが形成され、血色素尿では一様に緑色に発色します。

    血尿の有無は尿沈査の結果と合わせて評価します。

    試験紙の検査で血色素尿となるのはヘモグロビン尿やミオグロビン尿の場合です。

    • ヘモグロビン尿は、尿の上清が赤ブドウ色であり、血管内溶血を示唆する所見です。
    • ミオグロビンは筋肉に存在するヘム蛋白であり、ミオグロビン尿は筋疾患、筋の挫滅、運動などで横紋筋融解が起きていることを示唆します。

    尿糖

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    血糖値が一定の値(犬では 180~220 mg/dL、猫では 200 ~ 280 mg/dL)を超えると尿糖が出現します。

    尿糖の程度と試験紙によるブドウ糖の評価には一定の相関があります。

    一方で、血糖値が高くない場合にも尿細管障害により尿糖が検出される場合があります。

    尿糖が検出された場合で、持続性の高血糖があるかどうか調べたい場合には、血液サンプルを用いてフルクトサミン、グリコアルブミン、グリコヘモグロビンの測定などを行うことがあります。

    ビリルビン

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    肝疾患や溶血などにより血中の直接ビリルビンが増加すると尿中にビリルビンが出現します。

    犬では、健常な状態でも尿中ビリルビンがみられることがあるとされます。

    猫で、尿中ビリルビンが出現した場合には常に異常と考えます。

    スクリーニング検査であり、正確な評価のためには血中ビリルビン測定などの血液検査を行います。

    ビリルビンは光に不安定であるので、新鮮尿を用いて検査します。

    ウロビリノーゲン

    ウロビリノーゲンはビリルビンが腸内細菌により還元されて産生されます。

    黄疸によりビリルビンの排泄が増加すると尿中ウロビリノーゲンが増加します。

    しかし、閉塞性黄疸などで消化管へのビリルビン排泄が減少したり、抗生剤投与などで腸内細菌が減少したりするとウロビリノーゲンは減少します。

    黄疸の原因について血液検査や画像診断の方が鋭敏であるため、現在では小動物領域でのウロビリノーゲン検査の臨床的意義は低いです。

    ケトン体

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    臨床検査でいうケトン体とは、アセトン、アセト酢酸、Bヒドロキシ酪酸の総称です。

    通常の尿スティックで検出されるのはアセト酢酸です。

    アセト酢酸は揮発性のアセトンに変化するため、新鮮な尿で検査することが望ましいです。

    糖尿病の際、ケトーシス、ケトアシドーシスの診断に用いられます。

    糖尿病のほかに飢餓や運動などによってもケトン体が検出されることがあります。

    セフェム系薬剤、SH基を有する薬剤を使用している場合には擬陽性となることがあります。

    糖尿病性ケトアシドーシスについてはこちらをどうぞ!

     

    尿中NAG (NAG:N-acetyl-B-D-glucosaminidase)

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    腎障害、腎盂腎炎、子宮蓄膿症

    NAG は尿細管のライソゾームに存在する酵素です。

    尿中の NAG は近位尿細管から逸脱したもので、尿細管障害があるときに多く漏出します。

    動物では尿中クレアチニンで補正して、活性値をクレアチン濃度で割った値を使用することが多いです。

    報告されている参照値は、雄で3.8 ± 2.6 U/g クレアチニン、雌で 2.1 ± 1.4 U/g クレアチニン、全体で 3.2 ± 2.4 U/gクレアチニンです。

    • 慢性腎不全では高値となり、腎盂腎炎を伴う尿路感染でも高値となります。
    • 下部尿路感染だけでは上昇しません。

    血糖値コントロールの不十分な糖尿病で上昇し、子宮蓄膿症でも上昇することがあります。

    参照値は 1.6 ± 1.5 U/gクレアチニンです。

    下部尿路疾患では上昇しません。

    疾患がある場合には 10 ~100 U/g クレアチニンくらいにまで上昇します。

    膀胱炎と腎盂腎炎の鑑別に用いられるほか、腎障害の有無を評価する際に有用です。

    強い酸性尿やアルカリ尿では NAG が失活する可能性があります。

    遺伝子変異検査:Braf(移行上皮癌、前立腺癌)

    BRAF遺伝子の変異は人の悪性黒色腫や大腸がんに認められる遺伝子変異であり、遺伝子検査法が確立されています。

    犬においては膀胱移行上皮癌及び前立腺癌に高率(60~80%)に認められることが近年判明しました。

    犬の移行上皮癌や前立腺癌は侵襲性が強く転移性も高い悪性腫瘍です。

    発見時の進行度合いに応じて治療法が選択されますが、頻尿血尿などの明らかな症状が出てからご家族が気付くため発見が遅れることがあります。

    診断においては病変の超音波による描出、そして疑われる病変から採材した細胞組織の形態評価が行われています。

    高感度の手法により、尿中に存在するごく少数のBRAF遺伝子変異を持つ腫瘍細胞を検出することができます。

    膀胱の超音波検査

    正常

    膀胱腫瘍

    検体の採材量不足や尿による変性で正確な診断が得られず形態だけでは確定診断に至らないことがあります。

    そこで診断をより確定的にするための、移行上皮癌・前立腺癌の診断補助となるBRAF 遺伝子変異検査が開発されました。

    本検査は侵襲性の低い採材法による検体で検査可能で、感度と特異度が高く、腫瘍と確定したい場合には形態評価との組み合わせで有用性を示します。

    検査内容

    犬の移行上皮癌および前立腺癌の腫瘍細胞では BRAF 遺伝子の特定領域(コドン595)に高率で点突然変異(V595E)を有します。

    したがって本変異が検出されれば、移行上皮癌または前立腺癌であるとの診断を支持する証拠の一つとなりえます。

    犬の移行上皮癌及び前立腺癌における尿沈渣もしくは前立腺マッサージ液沈渣を用いたBRAF遺伝子変異検査が受託されています。

    BRAF遺伝子変異とは

    犬や猫における肥満細胞腫の発生にはc-KIT遺伝子の変異が深く関わっています。

    これらの変異は正常な細胞には認められず、遺伝子変異によりc-KIT分子が恒常的に活性化することでがん細胞の増殖を促進すると考えられています。

    2015年に、犬の移行上皮癌および前立腺癌においてはBRAF 遺伝子(V595E)変異が高頻度で起こることが報告されました。

    BRAF遺伝子の変異は人の悪性黒色腫や大腸がんに認められる遺伝子変異であり、遺伝子検査法が確立されています。

    尿中に存在するごく少数のBRAF遺伝子変異を持つ腫瘍細胞を検出することができます。

    この変異は移行上皮癌および前立腺癌以外にもいくつかの腫瘍において低頻度で起こっていることが同時に報告されています。

    しかし、移行上皮癌及び前立腺癌では60-80%の高頻度で変異が起こっていることから、診断的マーカーとして利用されています。

    尿路移行上皮癌や前立腺癌では尿中や前立腺マッサージ液中に腫瘍細胞が剥離してきます。

    犬の各種疾患におけるBRAF 遺伝子の変異率
    表1 犬の各種疾患におけるBRAF 遺伝子の変異率

    *1:3) の論文では、droplet digital PCR (ddPCR) という検出感度に優れた方法を用い変異率を算出していますが、表中の検
    出率はPCR-RFLP 法と感度が同等のDNA シーケンス(ザンガー法)で算出した検出率を掲載しています。
    1) Decker B. Mol Cancer Res. 2015 Jun;13(6):993-1002.
    2) Mochizuki H, PLoS One. 2015 Jun 8. doi: 10.1371/journal.pone.0129534.
    3) Mochizuki H. PLoS One. 2015 Dec 9. doi: 10.1371/journal.pone.0144170

    尿路移行上皮癌や前立腺癌の症例では強い感染や炎症を伴っていることが少なからずあり、このような場合には数百個のBRAF変異を持たない炎症細胞に数個のBRAF変異腫瘍細胞が希釈されています。

    しかし、この遺伝子変異は、悪性腫瘍以外の正常組織や炎症性疾患、膀胱の良性腫瘍である移行上皮乳頭腫等(ポリープ)の病態ではこの遺伝子変異は認められないことが確認されています。

    BRAF遺伝子変異検査は、尿沈査・または前立腺マッサージ沈査中から腫瘍の変異遺伝子を正しく検出する、非常に高感度の検査法です。

    300個に1個の腫瘍細胞を検出することが可能で、また数千~二万の遺伝子を個別に解析できます。

    一方、これらの癌のうちの20-40%、過形成あるいは炎症病変では変異は検出されません。 

    検査の特徴

    これは腫瘍マーカーとして感度が高く、特異度が100%であり、理論上、腫瘍を疑う症例であって、沈査中の細胞から抽出したBRAF遺伝子に変異が認められる場合は、移行上皮癌もしくは前立腺癌である可能性が極めて高いと考えられます。

    しかし、悪性腫瘍の中にもBRAF遺伝子に変異を持たない悪性腫瘍が20~30%存在しますので遺伝子変異が陰性であることは悪性腫瘍を否定する結果ではないことに注意が必要です。

    尿路上皮系病変におけるBRAF 変異頻度の模式図
    図1.尿路上皮系病変におけるBRAF 変異頻度の模式図

     外円は診断結果、内円は遺伝子検査結果を示しており、外周の値は移行上皮癌あるいは前立腺癌における変異陽性率(60 ~ 80%)および変異陰性率(20 ~ 40%)を示しています。

    解析結果に応じて「変異あり」「検出されず」を主たる結果として報告しています。

    • 「変異あり」は、他の検査と合わせてより確定的な診断材料となる意義があります。
    • しかし、この結果をもって癌の分類はできません。
    • 「検出されず」は変異を持たないタイプも存在するため、移行上皮癌あるいは前立腺癌を否定する意味ではないです。
    • また、検体中の腫瘍細胞の割合が少ない場合には変異の有無の判断がつかない場合があります。

    このようにBRAF遺伝子変異解析検査は犬の尿路移行上皮癌及び前立腺癌の確定診断補助ツールとして有用ですが、単独で確定診断の根拠とすることはできません。

    診断に際しては、他の検査所見、特に細胞診検査所見と合わせて判断することが大切です。

    Braf遺伝子検査の適用

    • 超音波検査で膀胱壁の肥厚などが認められたが開腹は困難であるため、尿や尿道カテーテルで採取した細胞で腫瘍性変化であるのか否かを明らかにしたい。
    • 細胞診/ 病理診断で移行上皮癌/ 前立腺癌が疑われたが、確定診断が得られていない。確定診断の根拠が欲しい。
    • 細胞診を行ったが形態を維持した細胞が少なく評価が困難であった。
    • 形態評価では癌は否定的であったが、症状との整合性がつかず癌を否定できない。

    Braf遺伝子検査の疑問

    BRAF 遺伝子に変異が検出されれば腫瘍性増殖と断定できますか?

    非腫瘍の組織から変異は検出されていないため、腫瘍の可能性が非常に高いといえますが、細胞診・病理診断とあわせて評価する必要があります。

    BRAF 遺伝子に変異が検出されなければ腫瘍性増殖を否定できますか?

    否定できません。膀胱の移行上皮癌や前立腺癌で変異が検出される割合は60 ~ 80% で、残りの症例は変異が検出されないタイプです。

    また、検体中に腫瘍化した細胞が含まれていない場合には、変異を有する腫瘍であったとしても検出は困難ですので、尿や膀胱洗浄液を用いた場合には注意が必要です。

    移行上皮癌と前立腺癌の鑑別や分子標的薬の効果予測に使えますか?

    どちらの腫瘍も変異が一定の割合で検出されているため、鑑別は困難です。犬においてはBRAF 変異腫瘍に対し選択的に効果を示す分子標的薬の適用は現在報告されておらず、本検査は移行上皮癌あるいは前立腺癌の診断の補助としての利用に留まります。

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    no dogs & cats no lifeをモットーに、現役獣医師が、科学的根拠に基づいた犬と猫の病気に対する正しい知識を発信していきます。国立大学獣医学科卒業→東京大学附属動物医療センター外科研修医→都内の神経、整形外科専門病院→予防医療専門の一次病院→地域の中核1.5次病院で外科主任→海外で勤務。

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